私たちの人生には、思い通りにならないことが次々と発生します。その中でも一番思い通りにならないもの、それは自分自身ではないでしょうか?世の中には、こうすれば人生うまくいくという指南本が溢れていますが、そんなに簡単に自分を変えることはできないものです。頭では理解できるのに、実際はそうできない、これはどうしてでしょう?それは私たちの感情が、自分の思い通りならないからです。もっと早くから試験勉強すれば良いのにと思いつつ、いつも一夜漬けになるなど、よく聞く話ですね。
では、そもそも、感情の役割とは何でしょうか?それは、私たちが生きて行くための指針やエネルギーとなるものです。美しいものに感動し、不当な扱いには怒ってしりぞけるというように、感情のおかげで私たちは人生を楽しみ、自分を守ることができます。
感情は私たちに本来備わっているものですが、言葉と同じく人との関わりで育って身について行くものです。喜び、楽しみ、悲しみ、怒り、不安、寂しさなど、どの感情も大切なものですが、それを表現して受け容れられる体験を繰り返す中で、自分も感情を受け容れ、生活に支障がない程度にコントロールできるようになります。この過程がうまくいかなかったり、思い通りにならない状況では、自分の感情を抑えつけたり、人に感情を投げつけたり、酒や食べ物などで紛らせたりするようになります。特に、環境や人間関係に恵まれなかった人には、自分の感情とのつき合い方は難しく感じられるものです。
自分の感情がよく分からずうまくつき合えないと、相手の感情を指針にして動くようになります。その結果相手の感情が自分より大事になり、ますます自分の感情が分からなくなります。自分の感情を見失って行くにつれ、気分が落ち込み、うつ状態になります。うつ状態とは何にも感動できず、何に対してもやる気が出ない、生きて行くには実に苦しい状態です。
迷子のように見失ってしまった自分の感情は、どうやったら取り戻せるのでしょうか?まず、感情を育てる時と同じように、感情を安心して出せる環境やサポートが必要です。その昔感情を出した時は、受け止めてもらえないばかりか、怒りや無視などで返されたこともあったのです。その時の感情は自分の中で抑えつけられ、忘れ去られています。忘れられた迷子のようなこの感情は、安心できる環境やサポートのもとで、根気よく探して行く必要があります。探し続ける、つまり自分を振り返って語り続けるうちに、何かのきっかけでひょっこり感情が出て来て、私たちを驚かせるものです。私たちは人生の中で、このような感情の迷子を何人か抱えているかもしれないですね。
感情とは自分の子供のようなものと言えるかもしれません。「かくあるべき」とこちらの想いを押しつけたり無視したりするのではなく、まず受け容れることで生き生きと存在できるものなのです。