「自分らしく生きる」とは、生き方の理想としてよく言われる言葉です。しかしよく考えれば、漠然とした分かりにくい表現でもあります。
そもそも自分らしくあるためには、どうしたらいいのでしょうか。
それには、まず自分という輪郭が必要です。自分の輪郭の中には、自分の感情、考え、信念、人間関係などいろいろなものが入っていますが、決して固定したものではありません。周囲との関係の中でいつも流動的に変化しながら、輪郭は作られています。このような輪郭は、どこかで意識し実感し続けることで存在するものです。
人は強い不安があると、それを外に投影し、さらに不安になります。暗がりの大きな木が、得体の知れない怪物に見えて怖くなったりします。人間関係に不安を持っていると、人が自分を排除しようとしているのではないかと思って脅えたりします。
このような投影が起こっている時は、自分の輪郭が危うくなっているのです。不安や怖れなどが自分の中にあることに気づいていけるようになると、輪郭がまた出来てきます。
強い不安を抱えた家庭では、互いの輪郭が乏しくなります。例えば、両親が不仲で互いを非難している家では、まるで戦争状態の中で暮らすようなものです。子供達は、両親の顔色をうかがい、明るく振る舞って両親を和まそうとしたり、どちらかの側に取り込まれて反対側の親を非難したり、家を避けて外で過ごすことが多くなったりします。不安は常に存在し、私たちは無力感や自己否定感に打ちひしがれます。このような情況では「自分らしく」生きることはできません。自分の輪郭はほとんど形成されないまま、情況に適応することに精一杯の生き方になります。
自分の輪郭を作るには、互いの輪郭を重んじる文化が必要です。不安や怖れ、怒りなどの感情が湧いても、それを周囲に投影して直接ぶつけるのではなく、そのような感情が自分の中にあることを分かって伝えられる環境が大事です。そのようなことを自由に話せる雰囲気があれば、互いを重んじ輪郭を作って行くことができます。自分の輪郭に基づいて生きることが自分らしく生きる第一歩、そして他者との共生を大切にできる第一歩につながります。