私達は生まれ落ちて、最初は赤ん坊、次に幼児、少年・少女、青年、大人と、呼称が変わりながら成長します。外見も成長につれ変わり、心も、両親や周囲に依存していた時代から、自分の心や考えを持つ大人へと成長します。
「自分」とは、このような過程を経て、ゆっくり形成されるものでしょう。周囲と融合したり離れたりしながら、その体験が己を変化・成長させ、「自分」を作っていきます。
成長し、大人として生きて行くためには、この「自分」ができていることが必要です。「自分」がないと、不安に対処できず、いつも身構えたり、時には現実逃避を図ったりするようになります。
この「自分」について、もう少し具体的に考えてみましょう。
子供の頃は、両親の指示や助言に従いながら、その中で自分の欲求を実現させようとします。遊びや勉強、友達関係など、子供としてやることはたくさんあります。
「自分」を作って行く子供にとって、すべてを大人の価値観や方法に従わせようとしたり、逆にそのような提示が全くない環境が一番苦しい環境です。このような環境では、自分の欲求を抑えて周囲に合わせるしかなかったり、何の提示もないので不安ばかり感じたり、どちらも本来の欲求を表現することができません。
適度な指示や助言があり、自分の欲求も出せるという環境で成長すると、だんだんと心に袋ができてきます。この袋に、自分の欲求と相手の指示や助言を、ひとまず入れて考えるのです。袋に入れて考えているうちに、例え相手の考えと自分の欲求が違っている場合でも、それなりの考えがまとまってきます。
この袋がないと、不安に持ちこたえながら考えるということができません。即座に相手の意見に従うか、拒否するかになりやすく、自分の考えがなかなか形成されないのです。
この結果、ストレスを強く感じるようになり、周囲との間に壁を作ったり、現実から逃避したりすることが起こります。心の中は孤独感や自己否定感でいっぱいという辛い状況で、分かってくれる人の助けが必要です。
心の袋は、人間関係を生きる私達に欠かせない大事なものですが、自分を肯定し分かってくれる環境でしか形成されないという難しさがあります。また、そのような環境が失われると、心の袋も小さくなっていきます。
お互いを認め合う良い人間関係を作って行くこと、その中で心の袋を作るよう心掛けること、その両方をいつも模索して行くことが、「自分」を保つことにつながりそうです。