この世を生きるのにあたって一番大切なものはと問われたら、皆さんはどう答えますか。人それぞれの価値観があり、例えば家族やお金や健康など、いろいろな答えが出て来そうです。
私が考えるのは、自分に対する信頼感が何より大切ではないかということです。
自分に対する信頼感が乏しいと、何をやっても達成感が乏しく、喜びよりも不安が先立ちます。不安の解消を求めて、何かに依存したり、現実から逃げたくなったりすると、さらに困難が続きます。
では、自分への信頼感はどのようにしてできるのでしょう。
人は赤ん坊の時に、いつも注意を向けられ、泣けばおっぱいを飲ませてもらったりオムツを変えてもらったりして、自分の願望はほぼ自動的にかなうという万能感の体験をします。
この万能感は物心つくにつれ、今度は自分を守ってくれる親が万能であるという考えに変化します。
これは、私達を取り巻く大きな単位である国家についても言えます。今から約1400年前の飛鳥時代、日本の国家が成立した頃、作られた歌が万葉集に載っています。
「大君は神にしませば水鳥の多集く水沼を皇都となしつ」この歌の意味は、天皇は神でいらっしゃるから、水鳥が集まる湿地帯を都にお変えになった、というものです。
本当は設計・工事した人々の尽力で都ができて行ったのですが、神のような力を持った天皇が作ったと、天皇に万能感を投影しています。国家ができて行く過程で、神のような万能の力を持った存在が、国民の凝集性を高めるため必要とされたのでしょう。
私達も、内なる万能感を親などに投影させ「うちのお父さんは偉いんだぞ」とひけらかし、安心感・優越感を持ちます。やがて成長するにつれ、様々な現実と直面し、次第に幻想は壊れ万能感も小さくなっていきます。
しかし一度作られた万能感はなくなることはありません。自分への信頼感の根っこには、この万能感の体験があるのです。