今日は、私がアルコール依存症の治療に携わっていた頃の体験から、お話ししてみたいと思います。
アルコール依存症の人というと、世間的には酒の欲求に弱いダメな人というイメージが強いのですが、実際は普通の真面目な方がほとんどです。ただその真面目さゆえ、自分で酒の問題を何とかしなければと思い込み、気づいた時には病気が進行していることが多いのです。
依存症が進んで日常生活にも支障をきたすと、周囲にも強く勧められ入院となります。
アルコールが抜ける間は、離脱症状に苦しみますが、抜けると徐々に元気が回復します。そこで治療プログラムが始まります。
主軸となるのは3つのプログラムです。アルコール依存症とはどんな病気か学習するプログラム、今までの酒に対する考え方や行動を振り返って変えて行くプログラム、仲間とともに自分のことを率直に語り合うプログラムの3つです。このような治療の合間に、山登りやウォーキング、畑作業、陶芸や絵画、音楽などの活動が加わります。なかなか濃密な毎日です。
この治療プログラムは3ヶ月で終了し、無事やり遂げた方には終了面接を行います。
ここで自分にとってためになったプログラムを聞くと、主軸の3つのプログラムと同じくらい、山登りやウォーキング、畑作業など、外で体を動かすプログラムが多いのです。
自然の中で身体を動かす活動は、身体を実感し回復する喜びがリアルに感じられるのでしょう。考えれば、まず身体があって私達は存在するのです。身体が回復する実感こそが、生きる喜びにつながり、断酒の意欲につながります。
依存症になる場合、自分を受け止めてくれる環境がなかったり、大事なものを失ったりと、何かきっかけがあることが多いものです。アルコール依存症になると、身体の声を無視して酒を飲み続けます。酒を止めて、そのような自分に向き合ううちに、身体の声が聞こえて来るようになるのです。
治療プログラムは3ヶ月で終わります。終わった後も、自分や仲間と向き合い、身体の声を聞ける環境(外来治療やディケアー、自助グループなど)に身を置いて行くことが、当面は大事です。